2015年12月、プロ野球・広島東洋カープが、マーセッド大学出身で2009年にダイヤモンドバックスからドラフト指名されたブレイディン・ヘーゲンズ(Bradin Hagens)選手の獲得を発表した。ヘーゲンズはマーセッド大学在学1年目の2008年から投手として頭角を現すと、同年のドラフトでロイヤルズから36位で指名を受ける。しかし、この指名を断りマーセッド大学で2年目のシーズンを続行。翌2009年にダイヤモンドバックスからドラフト6位の上位指名を受け、同球団とマイナー契約を結んだ。ヘーゲンズはマイナーリーグ1Aから順調にキャリアを積み重ね、2014年にはメジャー昇格、3Aで主に先発として活躍した昨季は防御率2.67の数字を残し、広島カープからのオファーを手にした。
マーセッド大学の野球部は毎年、Fresno City College, Taft Collegeと白熱のプレーオフ争いを演じており、これまで72名のドラフト指名(重複指名を含む)、21名のメジャーリーガーを輩出してきた。しかし、ヘーゲンズのようにコミュニティカレッジから直接プロに進むケースばかりではない。
昨年6月のドラフト会議では、マーセッド大学1年生のブレイク・セダーリンド(Blake Cederlind)がツインズから22位での指名を受けたが、彼の投球にバリエーションをもたらしたマーセッド大学野球部でのプレー継続を希望、2年目のマーセッド大学残留を決めた。ここまでは広島入りしたヘーゲンズと同じ流れだったが、セダーリンドは1月から始まるシーズンを前にして、NCAAディビジョン1に所属する名門カリフォルニア大学デイビス校より野球奨学金のオファーを受けた。今年6月に行われるドラフトでも上位指名が確実視されていたセダーリンドだったが、「こんなに素晴らしい機会はない」と、UC Davisへの進学を決意。若くしてのプロ契約よりも奨学金を獲得しての4年制大学進学を優先する形となった。
毎年のようにMLBからドラフト指名がかかるマーセッド大学の野球部だが、これまで指名された72名の内、プロ契約を結んだ学生選手は29名にとどまる。プロ契約を選択しなかった殆どの選手が野球奨学金を得て、より高いレベルの教育を受けられる4年制大学でプレーを続行している。進学後に再度指名を受けてマイナー契約を結んだ選手もいれば、指名を受けなかった選手もいるが、名門大学を奨学金を受けて卒業したとなれば、その後のキャリアに及ぼす影響は大きい。幸運にも野球選手としてプロ契約を結べたとしても、世界の超一流選手が集まるメジャーリーグの壁は高く、現役引退後の生活を考えれば、4年制大学で学んだことやそこで得た学歴・コネクションは、その人間が生きていく力となる。
アメリカの多くの若者は、学費の安いコミュニティカレッジで勉強をしながらスポーツをプレーし、夢を追いかける。彼ら・彼女らにとっての夢の舞台とは、プロの世界とは限らない。スポーツ奨学金を得て名門大学へ行くこと、その後の人生を豊かにすることもまた、「アメリカンドリーム」なのだ。